[第15回]民主党の政権奪取で、26歳大学院生に海外メディアが殺到する理由
流布する誤解を解くために
トバイアス・ハリス Tobias Harris マサチューセッツ工科大博士課程(政治学専攻)
トバイアス・ハリス氏
トバイアス・ハリス氏
民主党が総選挙で圧勝した。
海外での関心も極めて高い。なにせ半世紀以上ぶりの本格的な政権交代である。「台頭する中国、衰退する日本」というイメージが固定化した近年、エリート層の外国人が日本のニュースにこれほど引きつけられたのは初めてではないか。
日本のあらゆるメディアは、政権交代の意味と意義を解説する識者であふれかえっている。だが、その分析を直訳し、日本政治についてよく知らない外国人に聞かせても、まず理解できない。
新たに政権の座についた民主党について、きちんとした情報が提供されているだろうか。
「いったい、どんな考え方の政治家がいるのか、教えて欲しい」「彼らの外交・経済政策が知りたい」
8月末の総選挙の前後。私のもとには、BBCやブルームバーグ、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)アジア版など各種メディアから、テレビへの出演や取材の依頼が次々と飛び込んできた。
私が民主党の動きを中心に日本政治について英語で執筆しているブログ、「オブザービング・ジャパン」の閲覧件数は跳ね上がった。
期せずして、外国のテレビに登場する数少ない「民主党の解説者」になった私といえば、現在、マサチューセッツ工科大博士課程で政治学を専攻する26歳の大学院生である。
村上春樹愛読者が国会議員秘書へ
日本への興味は高校時代、村上春樹などの日本文学から始まった。日本語を独学し始め、大学では、日本への関心と、もともと持っていた政治への興味が結びつき、卒論のテーマは「明治維新」。留学先のケンブリッジ大では、冷戦後の日米安全保障関係を修士論文にまとめた。
その過程で、私は日米双方の専門家に数多くインタビューした。米国側は、ハーバード大教授のジョセフ・ナイ、ブッシュ前政権の高官だったマイケル・グリーン、現政権の国務次官補であるカート・キャンベルら大物はほぼ網羅した。
日本側では多くの国会議員に会ったが、その一人が、民主党の浅尾慶一郎参院議員(当時、現・みんなの党衆院議員)である。その縁で、鎌倉にある浅尾議員の地元事務所で06年秋から07年の参院選までの10カ月、秘書として働く機会を得た。
選挙区で「どぶ板」を踏み、秘書仲間と支持者とのつきあいをつぶさに観察した。日本の政治記事をむさぼり読み、気づいたことをブログに書き始めたのが07年のことだ。
民主党にフォーカスしたのは、所属議員の秘書ということもあるが、野党とはいえ力をつけつつある民主党に関して、まともな情報が不足していると感じたせいもあった。
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トバイアス・ハリス氏の略歴
1982 年、米シカゴ生まれ。2005年に米ブランダイス大学(政治学、歴史学)を卒業した後、英ケンブリッジ大学で国際関係学の修士号を取得。日本政治や日米関係を中心としたブログ“Observing Japan”は、日本語訳がニューズウィーク日本版のウェブサイトに掲載されている。今夏は日本に2カ月半滞在し、四国や中国地方などの選挙区を取材した。
最初に大手メディアから接触があったのは07年9月。安倍晋三首相の辞任を受け、WSJアジア版に「自民党の次の一手」について寄稿を求められた。08年3 月、日本銀行の総裁人事をめぐる民主・自民の対立が頂点に達した際、ビジネスニュース専門局CNBCアジアで初めてテレビに出演した。
今後も、海外メディアにコメントを求められることになりそうだ。私自身、民主党に関して広く流布している様々な誤解を解いていくのは、やぶさかではない。
私に声をかけてきたメディアがニュースの受け手に想定するのは、海外の投資家たちだ。彼らと話をしていて、民主党の経済運営に強い疑念を抱いているのに気づいた。
政権を取ったとはいえ、民主党の実像は海外の政府や投資家、メディアにほとんど知られていないのが実情だ。
たとえば、「民主党は、元自民党と旧社会党の議員たちの『寄せ集め』(ragbag)」という海外メディアの報道をよく見かける。総選挙前の時点でさえ、両党出身者を合わせても2割に満たない数であったにもかかわらず、である。
いわゆる「小沢ガールズ」に注目する一方で、小沢一郎幹事長が全国の候補者を党のマニフェストのもとに取りまとめ、民主党ブランドを築き上げた功績をほとんど無視している。
私が心配なのは、民主党が、海外のメディアに自分たちがどう報じられるのか、無頓着なことだ。
その最たる例が、月刊誌「Voice」9月号に掲載された鳩山由紀夫代表の論文をめぐる混乱である。要旨が、ニューヨーク・タイムズ電子版に転載されたが、「この党は、資本主義に敵対的な反グローバル主義者の集まりで、外交政策はアンチ米国だ」という最もひどいイメージを払拭(ふっ・しょく)するどころか、かえって強化してしまった。
海外への発信、システム化を
鳩山代表の考え方を海外に発信すること自体は良いことだが、やり方がまずかった。論文が直訳や要約された場合、外国人の読者にどのような受け取り方をされる可能性があるのか。外部の専門家にチェックを受けるべきだったのだ。
民主党は、海外メディアへ発信するシステムをつくる必要がある。
日本の有権者にわかってもらえればそれでいい、という考え方は危うい。海外、特にワシントン界隈(かい・わい)でネガティブな情報が流れると、それは日本の特派員たちを通じて日本でも報道され、党の人気にダメージを与えることになるからだ。
米国の歓心を買うために民主党が「対等な日米関係」という安全保障上のスタンスを変える必要は全くない。ただ、自民党とは違うアプローチをとることが、長期的に見ればより堅固な日米関係を築けるというメッセージを、正確に直接、海外メディアに伝えることが必要なのだ。
経済では、米国との間で自由貿易協定(FTA)を促進する政策が米国の輸出企業にもたらす恩恵をもっと強調すればいい。
今回の政権交代は、日本が新しい道を選び取り、「衰退」の流れを逆転させる潜在的な力があることを示した。勝利した民主党は、それをしっかりと海外に伝える責任も負っている。
(訳・構成 GLOBE副編集長 浜田陽太郎)
http://globe.asahi.com/meetsjapan/090921/01_01.html
The Asahi Shimbun Globe